ステンレス溶接の施工方法とその後の手入れについて

ステンレスは各種アーク溶接をはじめ電子ビーム溶接、レーザー溶接、電気抵抗溶接などさまざまな溶接方法の適用が可能です。ステンレスで利用される代表的なアーク溶接方法と推奨適用板厚範囲を表1に示します。また溶接材料を使用する場合は基本的に母材と同じか近い組成のものを選定します。

被覆アーク溶接棒の種類はJISZ3221に28種規定されています。しかし、ステンレスでは耐食性を高めるため多量のクロムを含み、かつ金属組織についても物理的性質が大きく異なるオーステナイト、フェライトなどが存在するため溶接の際には注意が必要です。

例えば、溶接部にスケールが形成されると不動態皮膜が出来ず耐食性が低下するため溶接時のガスシールが重要です。溶接後は酸化皮膜からなる変色部をペーパーやブラシで機械的に除去するか酸洗除去する方法が推奨されます。このための取り扱いの容易なペースト状洗浄剤も市販されています。

さらに、用途ごとに要求される溶接部の耐食性・機械的性質の観点から、溶接の際には個々の場合に適切な溶接条件の選定が重要です。溶接に関する代表的な特徴のみを以下に記述しますが、鋼種別の詳細については専門書を参考にしてください。

SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレスでは、550~850℃の温度域においてクロムが結晶粒界で炭化物を形成し耐食性が減少する場合があります。 使用される環境で腐食が問題となる場合は、低CでTi,Nb等の添加した鋼種への素材変更も必要になります。
また近年、ステンレス建築構造材としても使用されるようになり、この分野での溶接施工指針が制定されています。

表1 溶接方法と推奨適用板厚範囲

溶接方法 適用板厚
mm
鋼種 主用途
SUS304 SUS430
TIG溶接 0.5~3 薄板突き合わせ、隅肉、小径管
MIG溶接 3~ 厚板突き合わせ、隅肉、大径管
サブマージ
アーク溶接
6~ 厚板突き合わせ、隅肉、大板直線
被覆アーク
溶接
0.8~ 厚板突き合わせ、隅肉、大径管

適する  ◎ > 〇 > △

フェライト系ステンレスでは、低C,NでTi,Nb等を添加した各種の高純度フェライト系ステンレスが開発され、耐応力腐食割れ性を必要とする溶接構造の貯水槽などに利用されますが、これらの溶接においては耐食性確保のためC,N,Oの汚染防止が最も重要です。
また溶接熱影響部で組織粗大化すると低温靭性が大きく低下するため入熱制限等の注意も必要です。

SUS410に代表されるマルテンサイト系ステンレスは、溶接加熱でオーステナイトが生成し冷却の際に延性・靭性が低いマルテンサイトになるため、溶接熱影響部が著しく硬化し一般的には溶接には適していません。
この場合、適切な予熱・パス間温度管理が必要となります。

参考資料

1.ステンレス鋼溶接施工基準(平成12年12月);ステンレス協会
2.ステンレス建築構造物の施工基準

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