2025年5月7日
この度、ステンレス協会の第90回臨時総会におきまして、会長に就任いたしましたので一言ご挨拶を申し上げます。
昨今の国際情勢は、地政学面でウクライナや中東の情勢が混迷の度合いを深める中、経済面では米国大統領が打ち出す前例のない関税施策が各国を翻弄するなど、先行きを予測することがかつてなく困難になっております。一方でわが国においては、インバウンド需要が活況を呈する反面、深刻さを増す人手不足による影響やインフレによる消費意欲の減退など、楽観的な将来像を描きづらい状況にあると言わざるを得ません。
その中で私達ステンレス鋼産業は、どのような状況にあっても、社会が抱える課題に真摯に向き合い、ソリューションを提供する責務を負っています。私達への期待は、予測不可能な時代の複雑化する課題に対し、ステンレス鋼の持つ高耐食性、高強度性、意匠性、更には高いリサイクル性を、様々な領域で存分に発揮させることです。
一例を挙げると、ステンレス鋼適用による土木・建築物の高耐食化・高強度化は、メンテナンス負荷を軽減し人手不足問題解消の一助となります。また、高度経済成長期に整備された各種インフラの老朽化進行については、その主構成材料である鋼材の腐食が耐久性劣化の主原因となっており、更新にあたり高耐食性を有するステンレス鋼の適用は、国民の安全で豊かな暮らしを守る持続可能なインフラメンテナンスの実現に貢献します。更に、地球温暖化の影響を受け激甚化する災害に対しても、防災設備に高耐食性と高強度性をあわせ持つステンレス鋼を採用することで、災害に強い国造りを進める国土強靭化にも貢献します。
加えて、今後の新エネルギーとして期待される、水素やアンモニアなどの脱炭素エネルギー設備にはステンレス鋼が必要とされているほか、リサイクル性が高く長寿命のステンレス鋼は、ライフサイクルCO2の排出量が少なく、ステンレス鋼の使用自体が脱炭素化につながります。こうしたステンレス鋼の価値を社会に発信することは、ステンレス協会の重要な使命であり、ステンレス産業の発展に寄与するものと存じます。
ステンレス協会は、昭和34年(1959年)の設立以来、市場開発活動や調査統計事業、標準化活動などを通じて業界の発展に寄与してまいりました。こうした先達の皆様方の長年の取り組みに対し敬意と誇りを持つとともに、より充実させていく所存です。また、世界最高水準の技術力を誇る我が国ステンレス鋼産業は、worldstainlessなど国際的な活動への積極的な参画を通じて、世界のステンレス鋼産業の健全な発展に資する発信にも努めて参りたいと存じます。
末筆ではございますが、会員各社の格別のご指導とご支援をお願いし、会長就任の挨拶とさせていただきます。